「太田和彦の日本百名居酒屋」を担当している旅チャンネル、居酒屋のオヤジこと小川洋一が番組の裏話や居酒屋巡りをしている中で思ったことなどをコラムとして書き綴ります。
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髭コラム#8


2008/01/11 12:49
居酒屋のオヤジ
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日本百名居酒屋紀行 髭コラム
第八回 独酌三四郎・しらかば

「太田和彦の日本百名居酒屋」を担当している旅チャンネル、居酒屋のオヤジこと小川洋一が番組の裏話や居酒屋巡りをしている中で思ったことなどをコラムとして書き綴ります。

●釧路は寒い!けれど人は温か。
 前回の札幌に続いて、今回は釧路から旭川へと北海道を横断した。釧路には番組で紹介した「炉ばた」「挽歌」「万年青」以外にも良い居酒屋が多い。ほとんどが炉端焼きの店だが。その中でどの店を百名居酒屋で再訪するかは大いに悩むところであった。まずはレンタカーを借りて、釧路湿原に向かった。釧路本線釧路湿原駅に程近い細岡展望台だ。ここからの眺めは本当に素晴らしい。日本で一番雄大な眺めではなかろうか。見渡す限りの釧路湿原の広さに圧倒される。しかし、寒い。さすがに北海道。真夏でも30度になることはほとんど無いと言う、釧路の自然に触れた気がした。
 さて、居酒屋だ。まずは有名店「炉ばた」。以前取材させていただいたときは、40年も焼き手を務めておられた‘大学みつ’さんの絶妙な焼き加減に舌鼓を打ったものだが、その‘みつ’さんも引退されたと聞いていた。5時、開店と同時に店に向かった。すると、既に観光客と思しきカップルが一組店の前に並んでいる。すぐに暖簾が出て、私もカップルに続いて店に入った。一番端の席に腰を下ろし燗酒を頼むと、次々と観光客が入ってくる。10分もしないうちに、カップルや家族連れで満員だ。これは凄い。トップシーズでは無い平日にこれだけ混むとは。これでは、一人ボーっと酒を飲んではいられない。まあ、これだけの雰囲気を持つ炉端焼きは、他に無いから仕方が無いだろう。店の方にご挨拶しただけで次の店に向かった。
 次も、以前取材させていただいた「挽歌」だ。店は一階の狭いカウンターと二階にも部屋がある。お客さんはおらず、私が口開けのようだ。懐かしいカウンターに腰を下ろしご主人に話を伺うと、なんと80歳を越えたそうだ。今でも釧路湿原に通い、アウトドアライフを堪能しているらしい。うらやましい限りだ。都会に住んでいると、わざわざ自然を求めて遠出しなければならないが、ここ釧路なら、たった30分も車を走らせれば大自然の真っ只中なのだ。
 もう一軒、訪ねなければならない店がある。「しらかば」だ。以前、居酒屋紀行シリーズ釧路編のとき、この店で塩辛の新聞紙焼きという珍しい(昔の釧路では普通に食べていたらしいが)肴を頂き、大変良い思いをさせてもらったのだ。その時の事は太田さんが本に書かれている。その後、取材のお願いもしたのだが、ちょうど女将さんがカナダへスキーに出かけられてNGだった。気さくな女将さんは久しぶりに訪れた私の顔を覚えていてくださった。カウンターについてすぐ目に入ったのは、‘蝦夷鹿のやきとり’という文字。鹿の焼鳥とはちょっと妙だが、聞くとエゾシカの串焼きだそうだ。私は、群馬県上野村でジビエ(鹿、猪、熊など)を頂いてからすっかりファンになり、メニューにあると必ず食べている。確かに焼鳥のようにくしに刺して焼いてある。味は塩味、味噌味、醤油味の三種類。とりあえず三種類を一本づつ食べて、追加は気に入った味のものを頼めば良いシステム。野性味があって大変美味しい。ちょっと鴨やラムに似た感じかもしれない。シシャモも釧路産だそうで驚くほど美味しい。お客さんも地元の方が多く、ローカルな話題で盛り上がっている。やはり良い店だ。(取材の当日は、釧路観光協会の方、漁協の方、番組ファンの皆さんが集まり大騒ぎ。ファンの方は、居酒屋紀行を見て「挽歌」や「しらかば」に通うようになり、今では挽歌のご主人と一緒に釧路湿原に行く仲だそうだ。)
 居酒屋紀行で前回訪れた「万年青」にも寄っていこう。元気な女将さんが迎えてくれたが、体格の良い息子さんがいない。聞くと、東京に旅行されているそうだ。息子さんは結婚され、若い奥様も店を手伝っていると言う。家族全員で店を切り盛りするとはなんと羨ましい。女将さんも嬉しそうだ。これで、この店も安泰だろう。
 最後にもう一軒、カクテルスナック「笑の館」にも寄ってみた。前回釧路にお邪魔したとき、他のバーから釧路の老舗バーと教わった店で、その時はママさんと娘さんの二人がシェーカーを振っていた。マスターはたまたま仕事でお出かけの様子だったが、オーセンティックな本格的バーなのに‘カクテルスナック「笑の館」’では、客が入らない?と言って大笑いした覚えがある。今回は、マスター一人だ。そして、バックバーにはママさんの写真が。まさかとは思ったが、最近お亡くなりになったそうだ。今は、娘さんと二人で店を切り盛りしているらしい。縁とは不思議なもので、今日だけでも‘80歳を越えても釧路湿原で遊んでいるご主人’‘新妻を迎えて安泰の女将さん’‘これからと言うときにママをなくしたマスター’の3人に出会った。しかし、笑の館のマスターはそんな私の気持ちを探るでもなく、新規のお客さんのオーダーをユーモアを交えて的確にこなしている。団体で入ってきた新客は漁師のようだ。それも、遠洋漁業。即興のカクテルが得意のマスターに、‘ベーリング海’や‘北海’をイメージしたカクテルと難題をぶつけている。それを難なくこなすマスターと、喜ぶ漁師達の顔が釧路の夜に溶け込んでいた。

●旭川で昼真っから
 旭川に到着したのは昼前。まずは今評判の旭山動物園に行ってみた。しかし、レンタカーで向かった動物園は、駐車場に入る前から大変な人ごみ。駐車場を待つ車で渋滞している。これでは、旭川市内に戻る時間が遅くなってしまう。なので、そのままUターン。有名なラーメン店「蜂屋」に向かった。この店は旅チャンネルでも2回ほど取材させていただいたが、旭川の旅番組には欠かせない存在らしく壁一面にタレントのサインがいっぱいだ。前に来たときよりだいぶ増えている。そして、客も満員。確かに美味しいので、旭川旅行の時には是非寄っていただきたい。
 ラーメンを食べ終わり路地へ出ると、すぐ近くに「よしや」と言う古い焼鳥屋がある。まだ夕方にもならないが、ちょっと一杯やっていこう。店内は綺麗に磨かれているが、相当古い。なんと70年以上の歴史があると言う。ビールと焼鳥(かしわ4串)をもらって一息ついた。カウンターの奥では中年の女性が3人、生ビールを片手に盛り上がっている。昼間のこの時間、ゆっくり飲める人は少ないのだろう。その他の客は私一人だ。店内は、本当に歴史を感じる作りで、ご主人が一人黙々と焼鳥を焼いている。まるで、戦前の雰囲気。そのうちに一人お客さんがカウンターに座った。注文はチャップ。名前だけではなんだか分からないので、興味心身に焼き上がりを待つと、豚の付け焼きのようだ。ラーメンでお腹が一杯だが私も頼んでみた。豚のロース肉?を甘いタレに付けて焼いたもので、つまみになる。もう一杯ビールを頼んで、飲み干した。
 昼真っから一杯やってしまい良い気分だが、街中を少し散歩してみた。旭川の町は、至る所に彫刻などのオブジェが置かれ、市民の目を楽しませている。特に買い物公園や7条通りにはユニークなオブジェがあり、‘サックスを聴く猫’なんていうのもある。ベンチに座ってサックスを吹く人の前に猫が座っているのだが、本物の猫かと驚く人もいるだろう。歩いていても楽しい街だ。
 さて、お目当ての「独酌三四郎」だ。着物に割烹着の女将さんはお元気だろうか?今から思えば、もう何年も前、富山岩瀬浜の満寿泉の若旦那に、「旭川にとても良い店がある」と初めて聞いて以来だから、長いお付き合いになる。その後旭川に行くたびに寄っている。ミシュランではないが、この店だけを目的に旭川に旅をしたいぐらいだ。開店と同時にカウンターに座ると、ご主人が現われた。色黒のご主人はとても健康そうで北国の方とは思えない。沖縄人のようだ。女将さんはまだのようなので、ご主人に一本燗をつけてもらった。昼間行った旭山動物園の混雑振りについて聞いてみると、「最近本当に観光客が増えたね。でもこの店にはあまり影響はないよ。儲かっているのは、ホテルとコンビにだけ。みんな、コンビニでお弁当買って、ホテルの部屋で食べているみたい。」と寂しい返事だ。全ての観光客がそうでは無かろうが、知らない町で夜店を探すのは確かに勇気がいることだろう。でも、そのために当番組はあると言いたい。地方には地方の名物、名酒があると言うこと、そして、それを是非楽しんで欲しいというのが、当番組の趣旨だから。そうこうするうちに女将さんが登場。着物を美しく着こなし、長い割烹着姿の女将さんは背が高く、姿勢も大変良いので、昔はさぞかしもてただろう。(今も変わらずですが)ご主人が羨ましい。日本酒の選定は全て女将さんらしく、まことに渋い品揃えだ。地元の男山や国士無双、燗酒には麒麟山、そして、山梨の七賢まである。七賢は山梨県では良く飲まれているらしいのだが、山梨県以外(東京も含めて)で見たのは初めてだ。酒はあまり派手でなく、じっくり長く飲めるものを揃えているとの事で、「満寿泉は派手だから、年に一回だけ仕入れるのよ。隆ちゃんには申し訳ないけれど。」と女将さん。隆ちゃんとは満寿泉の若旦那のことである。これほど左様にこの店は奥ゆかしい。そんな雰囲気が大好きで、また是非来たいと思うのは私だけではないだろう。
 じっくりと腰をすえて日本酒を飲んでしまったので、最後はバーで締めよう。旭川の重鎮「バラライカ」だ。この店は本当に判りづらいところにある。何回も通っているのだがいつも間違える。ビルとビルの谷間の、人が一人やっと通れるほどの路地にあるからだ。ドアを開けるとマスターが一人、テレビを見ていた。お客さんはいない。マスターがテレビを消してカウンターの中に入ると、私もその前に座り、ジントニックをお願いした。もうかなりのお年だが、手馴れた手つきで、爽やかなジントニックを作っていただいた。以前お伺いしたときは若手のバーテンダーがいたのだが、独立でもされたのだろう。今はご夫婦でやられているらしい。今日は奥様不在だが。ここのマスターは日本バーテンダー協会(NBA)の会長職まで勤めた方で、その経歴は書ききれないほど。静かな店内で、じっくりとマスターの昔話とカクテルを楽しんだ。最後に店名のバラライカをお願いした時、嬉しそうに微笑む顔が可愛らしいと言ったら失礼だろうか?


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